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抑うつになりにくい食事パターンは??

神戸市東灘区のうおざき駅前心療クリニックです。以前はビタミンDとうつ病の関係についての報告をご紹介しましたが、今回は日本人の食事のパターンと抑うつの関係を調べた報告のご紹介です。

日本の地方自治体(山形県米沢市役所)職員における食事摂取パターンと抑うつの関係

Kitabayashi, Makiko, et al. “Relationship between food group-specific intake and depression among local government employees in Japan.” BMC nutrition 10.1 (2024): 21.

日本における調査結果です。2020年に米沢市の市役所職員さんに行ったアンケート結果をまとめたものです。食べ過ぎや極端に食事を制限している方や精神疾患で治療している方を除き、健康と考えられる方を対象としています。
2020年の厚生労働省の労働安全衛生調査によると、2019年11月から2020年10月の間に、精神的健康の悪化により1か月以上の休職をした従業員がいる企業の割合は7.8%と増加傾向にあるそうです。また、自殺は労働者の精神的健康問題の一つで、原因の多くは健康問題であることが知られており、自殺者の大多数にうつ病が見られます。そのため、うつ病の予防は従業員にとって重要な精神的健康対策と考えられています。食事、睡眠、運動はうつ病のリスクと関連しており、身体活動が少ない人、睡眠障害のある人はうつ病を発症するリスクが高いと言われています。
食事に関しては先述のビタミンDのみならず、鉄、亜鉛、マグネシウム、n-3多価不飽和脂肪酸、葉酸、ビタミンB12がうつ病やうつ症状と関連していることが知られています。これまでの研究では、鉄欠乏、亜鉛欠乏、低マグネシウム摂取とうつ症状との関係が示されおり、亜鉛や葉酸、ビタミンB12の経口投与はうつ病の予防として推奨されている・・・とこの報告には書かれていますが、その根拠は亜鉛については抗うつ薬の治療抵抗性の方に対するイミプラミンへの補充療法に限って効果的という報告であり、また葉酸やビタミンB12に関してもさらなる報告が必要な状態と考えられ、安易にサプリメントを内服した方が良いとも言えなさそうです。多くの研究で野菜や果物の摂取量が多いとうつ病のリスクが低下することが示されており、オランダ、カナダ、韓国、日本、ドイツ、ポーランド、ブルガリア、イギリスなど様々な国で確認されています。これらに関してもうつ病で食事に対する配慮ができないから不健康な食事になっているのか、これらの栄養成分を取っているもしくは野菜や果物の摂取が多いからうつ病になりにくいのか、までは不明です。そういった因果関係についてはさらなる研究が必要ですが、この報告では、日本の労働者における食品群別摂取量と抑うつの関係を調査しています。

うつ病と抑うつとの違いについては疑問が持たれやすい点です。臨床的にはこの2つの区別については実際のところあいまいな部分があります。これまでの経過や状況から恐らくうつ病だろう、とかそうではなく恐らく適応障害(などによる抑うつ)だろう、ということはできますが、その後の治療経過を見ていくうちに病名が変わることは往々にしてあるためです。また、この調査ではおそらく心療内科、精神科に受診しているというアンケート結果をもとに疾患の有無を判断しているので、アンケートでは疾患なしになっているけども、実際はかなり無理を通して働いており実情では精神疾患の状態にある方もいらっしゃるだろうと推察されます。また、適応障害で治療して治癒済みの方は実情では精神疾患ではないと考えられそうですが、そういった方は恐らく精神疾患ありということになりこの調査対象からは除外されていると推察されます。このような曖昧さについては診断そのものに内包されているものであり、どのような調査方法を用いたとしても逃れられるものではありません。

調査方法

2020年10月から11月にかけての地方自治体の職員を対象にアンケート調査を行いました。対象者は山形県米沢市役所の全職員568名です。一日のカロリー摂取量が600 kcal未満または4,000 kcalを超える方や、うつ病など精神疾患の方は対象外とし、423人(男性251人、女性172人、分析率84.1%)のデータが分析されました。そのため、あくまで健康の方における調査であることには注意が必要です。
項目
生活習慣と食事に関する自己記入式アンケートを実施しました。食事に関するアンケートは簡易自己記入式食事歴アンケート(BDHQ)で、日本人の食事に含まれる栄養素を調査するための簡単なアンケートです。BDHQの回答を集計して、エネルギー(kcal)、タンパク質(g)、脂肪(g)、炭水化物(g)、およびアルコール(g)の摂取量や15の食品群(穀物、ジャガイモ、砂糖、豆類、緑黄色野菜、他の野菜、総野菜、果物、シーフード、肉、卵、乳製品、脂肪および油、菓子、および好まれる飲料)の摂取量(g)を調べています。また、婚姻状況(既婚または未婚)、雇用ポジション(管理職または一般職)、運動習慣(定期的な運動の有無)、および喫煙習慣(現在の喫煙者、以前の喫煙者、または非喫煙者)や、年齢、身長(cm)、体重(kg)、1日の残業時間、および1日の睡眠時間、うつらしさなども調べています。

結果

参加者の特徴
男女差がなかった項目は、残業時間、睡眠時間、婚姻状況でした。年齢、BMI、エネルギー摂取量、炭水化物摂取量(%E)、アルコール摂取量、管理職の割合、定期的に運動する人の割合、現在の喫煙者の割合は男性の方が高く、CES-Dスコアとタンパク質(%E)および脂肪(%E)の摂取量は女性の方が高かったようです。PMDDのところで述べたように女性がうつ状態に苛まれやすいという事がここでも表れています。表2は、抑うつの有無に応じた性別ごとの参加者の特徴を示しています。抑うつの有無に応じて、男性と女性の両方で睡眠時間に有意な差が見られました。とはいえ、男性のうち抑うつのない人で6.6 ± 1.0時間、ある人は6.5 ± 1.2時間で、女性は抑うつのない人で6.5 ± 1.1時間、ある人は6.2 ± 1.1時間と統計的には有意な差といえども、感覚的には大きい差ではありませんでした。男性では、抑うつのある人の41.7%、抑うつのない人の56.1%が定期的に運動しており、抑うつのない人は運動をより頻繁に行う傾向がありました(p = 0.055)。女性では、抑うつのある人とない人の間で運動の頻度に有意な差は見られませんでした。

抑うつの有無に応じた食品群別摂取量

 男性女性
CES-D <16CES-D ≥16p-valueCES-D <16CES-D ≥16p-value
n=190 (75.7%)n=61 (24.3%)n=113 (65.7%)n=59 (34.3%)
穀物(g)416.1 ± 137.8433.5 ± 169.20.205384.7 ± 112.4397.4 ± 114.60.453
芋類(g)40.7 (24.0–61.2)32.2 (13.4–58.6)0.03651.4 (30.5–83.7)49.8 (26.4–66.8)0.661
砂糖(g)2.9 (1.6–4.6)2.6 (1.8–4.2)0.5933.7 (2.4–4.9)3.5 (2.2–5.3)0.924
豆類(g)71.5 (46.3–99.0)58.1 (32.1–97.0)0.12269.0 (47.5–97.7)65.5 (44.6–101.4)0.950
緑黄色野菜(g)75.9 (53.6–113.1)65.9 (41.1–102.4)0.14697.6 (66.5–143.9)84.7 (65.7–119.6)0.218
その他の野菜(g)125.3 (90.4–167.5)103.3 (75.4–150.4)0.037154.6 (123.5–209.7)138.6 (116.5–169.8)0.067
野菜すべて(g)206.3 (150.1–282.0)161.7 (120.4–263.6)0.040245.3 (190.5–341.2)223.5 (190.5–277.6)0.123
果物(g)60.4 (28.0–113.7)62.2 (29.6–127.3)0.80285.5 (53.0–130.8)88.5 (55.0–126.0)0.828
魚介類(g)64.8 (47.4–87.9)71.0 (38.6–90.2)0.88171.8 (52.8–97.4)68.2 (48.7–95.6)0.655
肉類(g)73.5 (51.4–100.4)67.3 (44.3–86.0)0.04483.4 (64.6–102.5)76.5 (60.8–94.7)0.291
(g)35.3 (24.8–56.4)25.1 (16.1–50.3)0.01540.6 (23.6–53.7)33.5 (24.8–47.2)0.497
乳製品(g)96.0 (27.3–180.6)65.1 (21.8–136.7)0.255127.0 (47.6–162.9)120.6 (66.3–165.9)0.838
油脂類(g)11 (7.7–13.5)10.4 (6.8–13.8)0.47910.5 (8.1–13.2)11.0 (8.7–14.0)0.501
菓子類(g)30.9 (12.7–50.0)36.1 (16.6–58.9)0.11632.3 (18.1–52.0)39.5 (14.8–59.2)0.723
嗜好飲料(g)644.2 (443.9–980.8)681.0 (434.2–875.8)0.558496.3 (362.0–693.4)448.3 (267.9–668.8)0.403


上記の表は抑うつの有無および性別に応じたエネルギー摂取量で調整された15の食品群の摂取量の比較結果を示しています。ジャガイモ(p = 0.036)、他の野菜(p = 0.037)、総野菜(p = 0.040)、肉(p = 0.044)、卵(p = 0.015)をたくさんとっている男性で抑うつの人が少ないという結果でした。肉類を食べると元気が出るという印象はあったのでこの点については感覚的にも納得できます。しかし女性では、特定の食品群の摂取量と抑うつの有無との間に有意な関係は見られませんでした。
食品群別摂取量とうつ病の関係
男性で有意差の出た、芋類、緑黄色以外の野菜、肉、卵について、男女ともにさらに解析がかけられており、男女別で、その成分(例えば肉)をたくさんとると抑うつになりやすくなるorなりにくくなる(今回の場合はなりにくくなる)かどうかを解析にかけたところ、男性では卵についてのみ相関が指摘されました。女性では有意差がなかった緑黄色以外の野菜で強い相関が見られ、卵については年齢や睡眠時間、定期的な運動の有無、アルコール摂取や喫煙の影響を取り除くと相関関係が明らかになるという結果でした。いも類や肉類については摂取量が増えるとうつ状態の人が少なくなるという関係性は確認できませんでした。

考察

性別に関係なく、卵の摂取量が多いほど、抑うつのリスクが低くなるという用量反応関係が明らかになりました。繰り返しになりますが、卵の摂取が多いから抑うつのリスクが低くなるといパターンと、抑うつになってしまったが故にあまり卵を摂取しなかなったというパターンのどちらかなのかはこの研究では分かりません。
分からないなりに検討された理由としては、卵にはトリプトファンが豊富に含まれており、セロトニンの材料になることが挙げられています。確かにうつ状態やうつ病の治療のためにSSRIといった選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使用することがあり、これが脳内のセロトニン濃度を上昇させるためにうつ症状が改善するという仮説があります。また、うつ病患者では血漿トリプトファン濃度の低下が報告されています。さらに、精神障害の家族歴がある人は、トリプトファン含有量の低いアミノ酸飲料を飲むことで、健康な人よりも抑うつを感じやすいことが示されています。以前調べた論文ではトリプトファンではなくビタミンDとの関連が指摘されており、ビタミンD(もトリプトファン)も多く含む魚介類を摂取するとうつ病やうつ状態のリスクが下がる結果になれば面白かったのですが、残念ながらこの調査では確認できませんでした。
野菜の摂取に関しては、うつ病との関連がしばしば報告されており、この調査でも野菜の摂取が多いほどうつつ状態のリスクが低くなることが確認されました。最近ではうつ病患者の腸内フローラに関する研究が行われており、野菜摂取が腸内フローラを改善し(腸内の細菌の種類や量を適切に整え)、毒素や物質の侵入を防ぐことでうつ病を防ぐかもしれないと指摘されています。「健康日本21(第二次)」の目標の一つに、1日350g以上の野菜を摂取することが含まれていますが、2019年の国民健康・栄養調査では、男性の平均野菜摂取量は280.5g、女性は273.6gであり、全体で70gの不足が報告されています。野菜の摂取量を増やす努力は、生活習慣病の予防だけでなく、精神面の健康にも大事なようです。

感想

繰り返しになりますが、因果関係がどちらか、なのかはこの調査ではわかりません。つまり、卵、野菜をたくさん摂取しているから精神的に健康になっているのか、それとも、精神的に健康でうつ状態とは無縁なので、食事に対しても意欲的であり、卵、野菜を多めに摂取できているのか、のどちらなのかは分かりません。ただいずれにせよ、一般的に言われているような健康的な食事を摂るにこしたことはないでしょうし、もし意識できるのであればバランスの取れた食事を意識する上で、野菜や卵類を多く摂る工夫をするとよりよいのかもしれません。以上、神戸市東灘区から食事とメンタルケアについてのご報告でした。

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