神戸市東灘区のうおざき駅前心療クリニックです。不眠は万病の元、と不眠症(睡眠障害)の部分で記載していますが、精神科的には睡眠障害は目の敵にするくらいの状態です。おくすりで改善することがたいてい必要になりますが、近年の精神医学界ではベンゾジアゼピン系の薬剤などのGABA作動性の薬物については依存性が問題視され、できるだけ短期間の投与にとどめる、など気をつけるべき薬剤とされています。今回はベンゾジアゼピン系の薬に頼らないためにどうしたらいいのか?に一石を投じるかもしれない、GABA系の役割に焦点をあてた台湾からの報告をご紹介します。
不眠症に対するGABA作動性システムの役割
Varinthra, Peeraporn, et al. “The role of the GABAergic system on insomnia.” Tzu Chi Medical Journal 36.2 (2024): 103-109.
不眠症などの睡眠障害は、当院のようなかかりつけ医を受診する患者さんの約半分の方におこり、世界の成人人口の3人に1人が患っていると言われています。精神疾患において大変問題のある状態ですが、それだけではなく、免疫が弱まり、認知機能が損なわれ、ホルモンバランスが崩れる可能性も指摘されています。 睡眠周期が不規則になってしまう理由としては、シフト勤務、時差ぼけによる概日リズムの乱れ、夜間の長時間スマホやタブレット、PC画面を使用するといった長時間のスクリーンタイムなどのライフスタイルの選択、睡眠時無呼吸症候群、アルツハイマー病などの神経変性疾患などなど、非常に多岐にわたります。また、睡眠障害による睡眠不足のせいで生産性が低下することにより、2017年には米国で4110億ドルの損失があったとする試算があるなど経済的影響は計り知れません。
GABA受容体に作用する睡眠薬
GABAはγアミノ酪酸の略ですが、この辺りを詳しく説明しても眠くなるだけなので割愛します。ざっくりと、脳の活動を抑制する神経伝達物質であって、これが脳で働くと眠くなったり、記憶や学習にも関与する、くらいに理解しておけば良いと思います。かなりポピュラーでいろんな方が服用しているけれど、上に述べた依存性という部分で問題視されているデパスやマイスリー、またそこまで今はメジャーではありませんが、かつてよく使われたバルビツール酸系の睡眠薬はいずれもGABAの作用を介して睡眠効果を発揮します(GABAが含まれている薬剤ではありません)。
GABAサプリメント
その一方でGABAサプリメントというものが近年流行しています。GABAを添加したお茶を毎日250 mL就寝前に飲むと、睡眠効率が高まり入眠までの時間が短縮され不眠症の症状が改善した、などの報告(Hinton T, et al 2020)や、100 mgのGABAを就寝30分前に経口投与すると入眠時間が短縮しnonREM睡眠時間が延長したという報告(Yamatsu A,et al 2020)がなされています。こういった報告に基づいているのか、GABAサプリメントはたくさん生産されており、睡眠の質を高めるのに効果的であるようです。
結語
以上のように、GABAを介した睡眠薬は多数存在し、また漢方薬にもGABAa受容体を調整する成分が含まれていることなどが記されており、今後の薬剤開発において漢方薬の成分が新薬の候補として将来有望であると締めくくられていました。
感想
ベンゾジアゼピン系薬物からの脱却という世間の流れに沿ってはいるのですが、漢方に関する記述がそこまで厚くないにも関わらず、漢方と新薬開発との結びつきを関連付けるのはやや強引な印象を受けました。台湾からの報告なので色々と察することにします。GABAサプリメントについては、ここで紹介された論文などが開発根拠となっているのだろうなと納得が行きましたが、ここで挙げられており(宣伝でも強く謳われている)睡眠の質の改善については入眠時間の短縮とnonREM睡眠時間の延長が根拠のようで(それでも薬剤なしでこれが達成されるのはすごいことですが)、自覚的な良眠感の向上や、睡眠薬の使用量の低減など、臨床的にインパクトの大きい結果については調べる限りでは報告や記載が確認できませんでした。そもそもGABAサプリメントについて論じられた報告ではないのでここにそれを求めるのはお門違いではありますが、GABAサプリメントの臨床的な有用性についてもうちょっと調べてみたいところです。ちなみに一時よくCMで見た寝る前に飲むとよく眠れる系の機能性ドリンクの成分を調べてみると、ここで調べた通りGABAが100mg配合されているとのことで、こういった文献に基づいたものなのだと感心しました。