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PMDDの新薬候補

神戸市東灘区の心療内科、うおざき駅前心療クリニックです。タイトルは立派ですが、現時点ではまだ日本では使えない薬の話になります。選択的プロゲステロン受容体調節薬(SPRM)といって海外では子宮筋腫の治療薬もしくは経口避妊薬として使用されている薬剤だそうです。以前、ADHDとPMDDの関係について調べましたが、今回はPMDD単独についてです。

PMDDに対する新たな薬理学的アプローチ

Sundström-Poromaa, Inger, and Erika Comasco. “New pharmacological approaches to the management of premenstrual dysphoric disorder.” CNS drugs 37.5 (2023): 371-379.

SPRMはプラセボとの比較でPMDDの重症度を改善させ、また副作用は無視できるレベルだとか。ただし子宮筋腫の治療薬として使用する際には肝障害に注意が必要とのことで、まったく副作用がないとは言えなさそうです。

それでは内容を細かく見ていきます。多月経前不快気分障害(PMDD)は女性の約5%に起こる女性特有の気分障害で、SSRIによって症状が緩和できますが、SSRIそのものの副作用などから半数の方は治療が継続できない、など誰にでも適応できる治療法ではありません。卵巣ホルモンであるエストラジオールとプロゲステロンは、血液脳関門を容易に通過します。脳画像所見からは、これらの受容体が感情と認知に関連する脳領域に広く分布していることが明らかになっており、女性の脳はホルモンの変動によって大きな影響を受けると予想されています。

そもそも女性は男性と比較して気分障害を発症する可能性が高く、特に思春期の始まりの時期やホルモンの変化が激しい妊娠や更年期などで顕著です。それだけでなく、日常的な月経周期などのホルモン変化も気分症状と関連しています。月経周期のうちの黄体期は特に気分障害と関連があるとされており、自殺念慮や自殺行動に至る場合もあります。月経前においては、身体的、気分的、行動的な苦痛は、多くの女性が経験する一般的なものですが、少数の方はより重症で日常生活に大きな影響を与えるPMDDの診断に至ります。PMDDの有病率(約5%)はどの国でもどの時代においても変わりないようです。PMDDによる負担は重度のうつ病と同等と言われているそうですが、その治療法についての研究はいまだ不十分です。

PMDDの特徴

PMDDの特徴は、黄体期中のみに症状があり、卵胞期には無症状であって、なおかつ毎回の月経周期で慢性的に症状があることです。PMDDが月経周期に伴って症状を示すことから、黄体期ホルモンの変動が関わると考えられますが、PMDD患者の卵巣ホルモン変動そのものには健常者と変わりないことが知られています。このことから、ホルモンバランスそのものが問題なのではなく、ホルモンに対する脳の感受性の高さが問題になると予想されています。SSRIによってPMDD症状が軽減することから、卵巣ホルモンがシナプス伝達に影響を与えるのではないかと考えられています。PET画像を調べると、PMDDの症状のない健康な群ではセロトニン1A受容体(5-HT1A)の可用性が卵胞期から黄体期後期にかけて増加しているそうですが、その一方、PMDDの症状のある患者群ではセロトニン1A受容体の数が増加せず、このことが疾患の発症に関わるのではないかと予想されているそうです。また、GABA A受容体の関与も指摘されています。これとは対照的に、卵巣ステロイドであるエストロゲンそのものとPMDDの関係は乏しいようで、経口避妊薬ベースのエストロゲン製剤によるPMDDに対する治療はあまり有益でないとされています。

PMDDの治療

選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)

PMDDの第一選択薬です。この薬剤はうつ病の代表的な治療薬です。そのため、この薬剤が効くということはうつ病なのでは?と考えられそうですが、うつ病の方とPMDDの方とでは薬剤への反応性が異なることから区別されます。この作用は、脳内の5-HT受容体と(プロゲステロンから合成される)アロプレグナノロンとの相互作用や、間接的なGABA A受容体への作用で出現すると仮定されています。しかし、PMDD患者の全員がSSRIによる治療に反応するわけではなく、副作用のために半分の方は治療を継続できません。

アロプレグナノロン関連

アロプレグナノロンはプロゲステロンの代謝産物です。月経周期において、プロゲステロンから1-3日遅れて変動するニューロステロイドであり、GABA A受容体に作用して、鎮静作用などを示すと考えられています。鎮静作用を発揮するのであればアロプレグナノロンを増やせばPMDDが改善しそうなものですが、アロプレグナノロンの合成阻害薬(5α-還元酵素阻害剤)を投与されたPMDD患者さん、つまりアロプレグナノロンの合成が減少した?患者さんで気分症状が有意に軽減されたという報告があるようです。同様にイソアロプレグナノロンという薬剤によりアロプレグナノロンを阻害してもPMDD症状が改善するそうです。アロプレグナノロンは多いほうが治療的なのかと予想しましたが、実際は逆のようで、もう少し詳しく調べたい内容です。

偽閉経療法、排卵の抑制(経口避妊薬)

排卵が抑制されると、PMDD症状を引き起こすホルモン変動がなくなるため、有効な治療法と考えられています。偽閉経療法のうち、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストでPMDD症状は軽減または消失することが知られていますが、理論上同様の作用を示すGnRHアンタゴニストはPMDD患者ではまだ効果が確かめられていません。混合型経口避妊薬(いわゆるピル)も排卵を抑制し、エストラジオールとプロゲステロンの内因性レベルを安定して低く維持するため、PMDDの治療に有効ではないかと考えられていましたが、合成のエストラジオールとプロゲステロンを常に高く維持されるため、結果的にはうつ症状の改善は認められないと最近の研究では示されています。一方、抗アンドロゲン作用のあるビル(ヤーズ配合錠)は、月経前症状に効果がある可能性が指摘されています。

プロゲステロン受容体拮抗薬

プロゲステロンの血中の濃度を低下させる他の方法としては、プロゲステロン受容体拮抗薬があります。GnRHアゴニストに比べて、エストラジオールが抑制されない点で有利です。最近の調査では、特に選択的プロゲステロン受容体調節薬(SPRM: 酢酸ウリプリスタル、UPA)が使用されています。この治療では、気分症状、特に怒り、イライラ、うつ病などの精神症状が改善しますが、身体的には大きな影響がなく、排卵が抑制されエストラジオールレベルは卵胞期中期レベルで維持されるため、多くの女性にとって月経や排卵に伴う症状がなく体調が安定していると感じる状態になります。副作用の頻度は少なく、出たとしても一般的に軽度であり、主に頭痛、吐き気、疲労でした。現在、SPRMは高用量で緊急避妊薬として、低用量では子宮筋腫の治療として使用されています。子宮筋腫の高齢女性における副作用で注意が必要であることから分かるように、肝機能に対する注意が必要ですが、より副作用が少なく耐容性の高いSPRMは、将来的に、PMDDの方の有力な治療法になり得ます。ですが、後述しますが日本では商品化の見通しは暗いようです。

その他

非薬理学的治療法もこれまでの文献で言及されており、自然療法から心理療法まで多種多様なものがあります。栄養剤は、推定されるビタミンやミネラルの欠乏症の方を想定しています。リラックス法は、患者自身の苦痛に対する耐性を強化することを目的としています。ハーブサプリメントの中では、セイヨウニンジン(Vitex Agnus Castus)が有力視されています。しかし、これらの治療代替薬の有効性と神経生物学的メカニズムはまだ不明です。

今後の展望

黄体期中のプロゲステロンの変動がPMDDを引き起こすメカニズムは不明です。プロゲステロンは血液脳関門を容易に通過します。プロゲステロン受容体に結合して阻害するSPRMは、ホルモンが脳の不適応反応を引き起こすのを防ぎます。MRIによる研究では、SPRMの治療によって脳の特定の領域の反応性が変化することが分かっています。攻撃性は、PMDDの主症状であるイライラや怒りによるものでありSPRMで改善しますが、脳の構造に変化を与えるものではなく、薬剤の脳への影響を懸念する人々にとっては安心材料といえそうです。

卵巣ホルモンが脳に及ぼす影響は複雑であり、はっきりとは解明されていません。感情と認知に関与する扁桃体、視床下部、および海馬などの脳領域には、プロゲステロンとエストロゲンの受容体が多数存在するためPMDDの患者で過敏になっている可能性がありますが、今後これらの脳機能が解明されることでさらなる治療法が見つかるかもしれません。

結論

PMDDでは、気分変動、うつ病、不安、およびイライラが、日常生活に悪影響を与えるほど深刻です。第一選択薬であるSSRIは、すべての女性に適しているわけではありません。現在のところ治療の選択肢が限られているため、プロゲステロン受容体調節薬は有望で効果的かつ忍容性の高い治療選択肢となります。

感想

現在海外で一般的に使用されているSPRMがPMDDに有効と考えられることが分かりました。ただし、これは日本では緊急避妊薬としても子宮筋腫の治療薬としてすら承認されていない薬剤であり、また、子宮筋腫の治療薬として以前承認に向けて動きがあったにも関わらず国内承認申請を取り下げられた経緯のある薬剤なので、日本で認可されることは当面ないかもしれません。アロプレグナノロン関連の治療薬の方がまだ可能性が高そうです。今後、PMDDについての治療薬の選択肢が増えることに期待します。

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