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ビタミンDとうつ病の関係

神戸市東灘区のうおざき駅前心療クリニックです。今回は心療内科の代表的な疾患であるうつ病とビタミンDとが関係するという報告に出会ったため、調べてみました。

20~44歳の成人におけるビタミンD不足がうつ病リスクを上昇させるが、周産期と授乳状態によってどう変わるか?

Hollinshead, Victoria Rose Barri Benters, Julia L. Piaskowski, and Yimin Chen. “Low Vitamin D Concentration Is Associated with Increased Depression Risk in Adults 20–44 Years Old, an NHANES 2007–2018 Data Analysis with a Focus on Perinatal and Breastfeeding Status.” Nutrients 16.12 (2024): 1876.

ビタミンDの血中濃度とうつ病との関係についての報告です。ビタミンDは骨の発育に重要であることが知られており、骨粗鬆症の治療薬としても使われますが、最近では妊娠そのものに必要な栄養素であることが明らかになったり、子宮筋腫の発生を防いだり、子宮筋腫のサイズを小さくするかもしれない、など様々な効果があり、女性にとってより重要な栄養素になりつつあります。

概要

アメリカの成人・子供の健康と栄養について調べるために、国立衛生統計センターがNHANES(National Health and Nutrition Examination Survey:健康と栄養についての調査)という調査を行いました。この報告では、2007年から2018年の11年間のデータにおいて、20歳~44歳の妊娠中、産後、そのいずれでもない女性と男性について調べています。また、母乳育児と粉ミルクとの違いも調べられました。

背景

世界的に、女性は男性に比べるとうつになりやすいと言われています。この違いについては理由が明らかになっていません。NHANESでもうつ病の有病率は2:1で女性の方が大きいとされています。生物学的な要素だけでなく、環境の影響もあると推測されています。周産期うつ病は母体だけでなく、子どもにも大きな影響を与えます。特に産前のうつは早発陣痛や妊娠高血圧腎症、胎児の発育不良、流産、帝王切開や器械分娩、新生児治療室への入院のリスクなどを上げると言われています。新生児についても母が産前うつになると低出生体重児や一歳までの発育不良のリスクが上がるとされています。さらに、産後うつは子の行動上の問題と相関するという報告もあり、運動能力や認知機能の発達不良や、睡眠障害、ボンディングにも悪い影響を与えるなど枚挙しだすとキリがありません。ビタミンDについては食事の影響も受けることから、食事についても調査の対象となっています。

結果

食事については、栄養素の摂取パターンから「西洋食パターン」と「パレオダイエットパターン」に分けられました。西洋食パターンは、総カロリー摂取量とタンパク質、脂肪、炭水化物、糖の摂取量全てが高いおそらく現代日本での一般的な食事様式です。パレオダイエットパターンは、脂肪とタンパク質の摂取量が多く、炭水化物と糖の摂取量を減らして摂取カロリーを下げるという、西洋で流行しているダイエット方法だそうです。太古の狩猟民族らしい食生活という事で、日本では旧石器時代食もしくは原始人食と呼ばれているそうですが、要するに低糖質ダイエットの事でしょう。

産後女性では、西洋食パターンに近いほど、うつ病のリスクが高くなりました。妊娠中の女性では反対に、うつ病のリスクが低くなったそうです。
一方、低糖質ダイエットパターンでは、妊娠中の女性以外でうつ病のリスクが下がるようです。逆に妊娠中の女性で低糖質ダイエットをすればうつ病のリスクが上がります。うつに対する影響の強さを比較すると、西洋食パターンよりも、低糖質ダイエットのような極端な食事の方が影響は大きいようです。しかし女性であっても産後であったり周産期だったりで反応が異なりますし、性別によっても反応が異なりますし、影響の強さが異なる、というだけなので、これをもって「うつ病を防ぐために低糖質ダイエットを心がけましょう」といってしまうのは乱暴な結論といえそうです。そもそも様々な他の疾患リスクの事も考えれば、バランスの取れた食事の方が良いと思われます。

ビタミンDについては、性別にかかわらず摂取量が多いほどうつ病のリスクを下げ、重症度も下げるようで、食事の影響よりもインパクトがあるようです。特に、妊娠中の女性に対する影響が最も強いようです。ビタミンDのうつに対する作用の理由としては、ビタミンDがセロトニン合成に直接影響することで、間接的にセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)およびモノアミン酸化酵素阻害剤(MAO阻害剤:日本では未承認)のような作用をする(シナプス間隙でセロトニン濃度を上げる)からではないか、と考えられています。

また、授乳中の女性と非授乳中の女性で比較すると授乳中の女性の方がビタミンDの影響を強く受けるとされています。ただ、その根拠が、授乳中の女性でうつ病の人が少ないということが根拠のようなので、授乳そのものがうつ病のリスクを下げているのではないかとも考えられます。とはいえ、ビタミンDは男女関係なくうつ病のリスクも重症度も下げるようなので、授乳中であってもビタミンDを適切に摂る事は大事と言えそうです。しかし、ビタミンD濃度は女性にとってはあまり浴びたくない紫外線の影響を受けます。日光を極端に遮断してしまうとビタミンD濃度が下がってしまいます。日照時間が短い地域や極端な紫外線対策はビタミンDにとっては悪影響です。美肌にとって紫外線対策は必要ですが、ご自身の健康や家族計画のことまで考えると(そこを考えなくてもどんなことにも言えることですが)極端な日焼け対策は裏目に出てしまいます。ほどほどを目指しましょう。

感想

保育園落ちた日本◯ね、一億総活躍社会じゃねーのかよ、は記憶にまだ新しいのですが、コロナに世界中が躍起にななり、話題が集まらないと見越したかのようなタイミングで一億総活躍社会担当相が廃止された時にはなんとも言えないやるせなさを感じたものです。最近は女性だけでなく、子育てになんとかコミットしようとする男性が職場での評価に悩んだり、育児の負担に疲弊して心療内科の受診に至る方もおられます。妊娠、出産、育児は幸せなイベントのようでいて、負担も大きく様々な問題を引き起こす場合もあり、男女関係なくビタミンDの摂取が大事とも言えそうです。低糖質ダイエットもうつには良いのかもしれませんが、ビタミンD含め、色々な栄養素を摂取する事の重要性も考えるとバランスよく何でも食べるほうがトータルで考えるとメリットが大きそうです。ビタミンDは魚介類に多く含まれているとか。美味しい魚料理が気持ちをあげてくれるかもしれません。

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