気分障害とは
うつ病の疫学
うつ病の合併症
うつ病の経過
うつ病の治療経過
活動記録表
目次
気分障害とは
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気が塞いで何もする気にならない。
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気分が落ちこむ。
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ずっと悲しい気持ち。
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気分が爽快で最高の気分だ。
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今すごく調子が良い。
前の3つの言葉は誰が見ても良くない状態です。ですが、その次の2つは良い状態のようですね。
この文章だけならたしかに気分は良さそうです。ですが、この調子の良さが突き抜けてしまうと、
無茶な投資にのめり込んだり、人間関係がやたらと広がりすぎて収拾がつかなくなったり、
必要のないものを買い込みすぎて、日常生活に支障をきたします。
ここまでになってしまうと立派な気分障害となってしまいます。
もちろん何か良いことがあったり、悲しいことがあったり、
そういった人生の出来事についてハイになったり気分が落ち込んだりするのは当然のことです。
それらすべてが問題があるのではなく、長引いて困っていたり、その強度が強すぎて困っているときに
治療が必要かどうかを相談することになります。
気分が落ち込むことに関しては比較的本人の困り感につながりやすいのですが、
気分が上がっている場合は、当の本人は無自覚であることがままあります。
「自分は調子が良く、いいアイデアが次々浮かぶし、睡眠時間も短くて済むようになった。
いろんなことにチャレンジできる。周囲の人も自分のことを評価してくれる。」
最後の一文が実際に正しいのであれば、治療の対象にならないかもしれませんが、
気分障害の方では「周囲の目」が正しく捉えられなくて、誤解してしまっている可能性もあります。
躁うつ病という病名は書いて字の通り「躁(そう)(気分が爽快)」と「うつ(気分が落ち込む」
両方の症状が現れます。
ただし、最初はうつの症状しかでないことも多いため、
その時に受診しても「うつ病」としか捉えられません。
薬物治療で異常にイライラしやすかったり、攻撃性があがったりした場合に
「ひょっとしたら躁うつ病かも・・・」と疑うことになります。
うつ病と診断されている方の10人に1人はまだ躁状態を経験していない躁うつ病である可能性はありますし、
初めてうつ状態を経験したのち、躁の状態になるまで平均6~10年かかると言われています。
注意深くご自身の状態を気にしていくことが重要です。
うつ病
うつ病の疫学
欧米では若年者に多く、平均発症年齢は20歳代半ばですが、日本では若年者に加えて中高年者でもうつ病の頻度が高いと言われています。また女性は男性よりも生涯有病率が約2倍だそうです。身体疾患をもっているとうつ病の有病率が高く、うつ病は身体疾患を悪化させ、身体疾患はうつ病を悪化させ、精神医学的介入が身体疾患の予後を改善させるため、身体疾患の治療も精神疾患の治療も同じように重要といえます。うつ病患者の近親者は一般人口より発症頻度が高い傾向がありますが、遺伝的要素と環境的要素の両方が関係していると言われています。発症危険因子としては最近生じたさまざまなストレスになるような出来事、被養育体験の問題(母親からのケアの低さなど)、発症時点のソーシャルサポート(周囲からの人的支援)が乏しいことなどが挙げられます。
うつ病と他の精神疾患の合併
うつ病の約57%はなんらかの不安症(社交不安症、パニック症、全般不安症)や強迫症、PTSDを合併しますが、不安性が先に発症する場合が多いです。不安症が合併しているとうつ病の治療効果が得にくいことや自殺の危険率が高いことも報告されています。
うつ病の典型的な経過
抑うつエピソードの典型的な経過というものがあります(うつ病診療エッセンシャルズより)。
徐々に症状が現れる前駆期、症状が最も顕著となる極期、徐々に症状が緩和される寛解期の3つに分けられます。
前駆期
の前半はものごとに興味がもてなくなり、注意散漫となったり、根気がなくなります。身体的な困り事も増えるため、まずは内科の問題ではないかと考えて受診に至る場合もあります。軽い疲労や早朝覚醒や食欲減退が起こります。この頃は1日の中での症状変動は乏しいままです。
後半では、気分がふさぎ込み、気分の移り変わりが激しくなります。考えがまとまらず、自信をなくしてしまい、将来に対する希望がもてなくなり、焦りを感じます。疲労感はさらにひどくなり、不眠が悪化し、体重も減少してしまいます。
極期
では顕著なうつ状態となり、人に援助すら求められる事ができなくなります。焦りも感じなくなりますが、精神的な苦痛は著しく、自分で自分を責めてしまい、自殺念慮が生じます。気分は1日中落ち込んだまま、自発的に何かすることができなくなります。
寛解期
の前半では落ち込みが改善し始めますが、1日の内でも気分の上がり下がりが激しくなり、少し良くなったと思えば悪くなったりするため、「昨日は元気だったのに・・・」といったような焦りも感じやすくなります。疲労感や不眠も改善されますが、早朝覚醒は残りやすいです。この頃がもっとも自殺のリスクが高いと言われています。
後半になると気分の良い日が続きますが、具合の悪い期間も短期間はあります。ものことに興味が湧き始め、自信も取り戻し、治りたいという希望が持てるようになります。疲労感も消失し仕事に取り組めるようになります。
うつ病の治療経過
寛解の状態が少なくとも2ヶ月以上続けば回復と判断できます。ただ、初回の治療で寛解に至るのは3割程度と言われており、7割は抗うつ薬の治療に無反応か、部分的な反応にとどまります。更に、うつ病は再発しやすいと言われており、初回の抑うつエピソードを経験すると再発率は50-60%と言われており、再発して抑うつエピソードの回数が多いほど再発リスクが高まると報告されています。
治療したとしても3割しか寛解に至らずしかも再発率もそこそこ高いため、治療に対する失望を感じてしまいがちですが、それでもある程度症状を軽くすることはできますし、そのことで再発や再燃もある程度は抑制できると考えられるため、治療を諦めないことが重要です。
活動記録表
1日の生活の記録です。日記的なものですが、睡眠、食事、内服、活動や、気分の状態も記載しもらうものです。最も落ち込んでいる状態を-5,フラットな状態が0, 最も活力にあふれている時を+5として併せて記録してもらいます。最初は「どん底」「そこそこ調子良い」くらいの把握具合で、数値化しようとしてもなかなか難しいと思いますし、あくまでご自身の主観的なものですから、再現性がなくても大丈夫です。それこそ気分で決めてしまいましょう。続けていくうちに、段々と自分の中で数値化できるようになっていきます。とはいえなかなか自分のことはちゃんと把握しにくいものです。同居している家族などご自身のことをよく知っている人に協力してもらうことも有効で、自分なりにつけた気分の数値と、人につけてもらった気分の数値を比較することも有効です。案外自分では0などとフラットな状態と思っていても他者からみると+5だったりするもので、これくらいの差が続くとそう状態かもと心配になってきます。
活動記録表 記載例です。あくまで例です。日曜の深夜(月曜日の午前3時頃)は中途覚醒がひどいので、一度睡眠を諦めてペッドを出て過ごしています。寝付けないのにベットで過ごし焦りを募らせるよりは寝室を一度出てしまうのは有効な対応方法です。月曜の深夜(火曜の午前3時頃)は何度も中途覚醒してしまうものの、すぐに寝付けていたようでずっとベットにいたようです。水曜は散歩(運動)をしたこともあるのか、少し早めに寝付けています。木曜日にはうっかり睡眠薬を飲み忘れてしまい、三時間睡眠くらいでしっかりと目が覚めてしまったため、これではいけないと運動(散歩)を頑張りつつ眠剤も忘れないように頑張って内服すると睡眠も安定していったようです。こんなに分かりやすく一週間で上向きに変化することは稀です。もしあったとしても翌週にはゆりもどしが来る可能性が高いです。また、正しく書くことにこだわる方は中途覚醒ごとにメモをとって時計をみて正確な時間を記そうとしてしまいがちですが、そこまでしてしまうとメモを記載するために覚醒状態を上げてしまい、もう一度眠ることが更に難しくなってしまいます。この記録表は生活状況のおおまかな把握が目的です。まずは睡眠を優先に行動して頂く方が良く、正確な中途覚醒回数や時間は不要なので「昨夜は3回くらい目が覚めたな・・・、寝ついてすぐとある程度寝てから2回くらだった気がするから・・・」くらいの書き方にとどめましょう。